不動産を所有している人が亡くなったら、相続が行われて新たに相続人を名義人として相続登記が行われます。
この時に増築部分が登記事項証明書には記載されておらず、未登記になっていることが判明することがあります。
増築の時などに行う建物表題変更登記は法律上の義務となっており、さらに未登記のままだと相続が複雑になる恐れもあります。
増築部分が未登記の場合の相続についてご紹介していきますので、参考にしてください。
増築部分が未登記のまま放置されている建物は多い!
登記事項証明書は表題部と権利部に分かれており、表題部に関する登記は不動産登記法によって義務付けられています。
表題部には所在や地目、地積、延床面積や構造など土地や建物の物理的にな状況が記載されており、これらが変更となった場合には「表題変更登記」を申請しなければなりません。
建物を増築すれば延床面積が変更になるはずなので、建物表題変更登記の申請が必要となります。
しかしながら増築をしたにもかからず、建物表題変更登記をされておらず増築部分が未登記の建物は日本中に多数存在しています。
これには表題変更登記は義務であり、罰則規定もありながら実際には罰則を受けた事例がないことが大きく影響していると言えるでしょう。
さらに登記申請を土地家屋調査士に依頼するとなれば、数万円~数十万円の費用がかかります。
「罰則規定の適用がなければ支払うのがもったいない」と考える人が出てきても、不思議ではありません。
「増築部分を登記しなければならない」との認識がない人もいます。
このような増築部分が未登記の建物は、売却時や相続時など所有者が変わる場合に発覚することが多くなっています。
増築部分が未登記かどうか確認する方法は?
増築部分が未登記どうかを確認するためには、登記事項証明書を取得する必要があります。
登記事項証明書とは土地や建物の登記記録を記載したもので、昔は「登記簿謄本」と呼ばれていましたが、現在ではデータ化され「登記事項証明書」と呼ばれています。
登記事項証明書を取得するためには、3つの方法があります。
1つめの方法は、法務局へ出向いて取得する方法です。
法務局は平日の8時15分から17時15分までしか開いていませんが、地番が分からなくても調べられるため便利です。
2つめの方法はオンラインシステムで申請し、郵送や窓口で登記事項証明書を受け取る方法です。
この方法であれば法務局へ直接出向く必要がないため、忙しい方でも登記事項証明書を取得することが可能となります。
最後の方法として、公的な証明書としては利用できませんが、「JTNマップ」や「登記情報提供サービス」で取得する方法があります。
こちらは事前に利用登録をする必要がありますが、利用時間は平日の8時30分から21時までと長めに設定されているのでより便利です。
登記事項証明書には延床面積の記載がありますので、実際の延床面積と比較することができます。
さらに「売買」や「相続」などの登記原因が記載されているので、増築部分が登記されているかどうかすぐに判断がつくでしょう。
増築部分が未登記だとどうして相続の時に困るの?
では増築部分が未登記のままだと、相続の時にどんなことで困るのでしょうか?
まず相続人が増築された事実を知らずに遺産分割協議を行い、相続登記を行ったとしましょう。
遺産分割協議書を作成し戸籍等を添付して相続登記を行うのが一般的ですが、遺産分割協議書にはもちろん増築部分について何の記載もされていません。
こうなると遺産分割協議書によって増築部分の所有権を証明することが困難になり、遺産分割協議書を作り直す必要がでてきてしまいます。
遺産分割協議書は相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となるため、再度作りなおすことが難しいケースもあります。
増築部分の所有権が証明できやすいうちは登記しやすいのですが、相続となれば複雑になります。
また、増築部分だけであっても未登記であれば、将来的に売却することは難しいでしょう。
これは、買主が住宅ローンを利用する場合銀行側は必ず登記することを条件としてくるためです。
買主を現金で購入できる人と限定すれば、売却しづらくなってしまうのは避けられません。
さらに、増築部分が未登記のままで良いと言ってくれる買主はかなり稀でしょう。
増築部分の未登記をそのまにしておくと罰則が!?
増築部分の未登記は相続の際に困るだけでなく、放置しておくと罰則が適用されてしまう恐れもあります。
現行の不動産登記法では、義務となっている表題登記に変更があった場合にも登記申請しなければならないと定められています。
そのため増築や滅失、改築などにより登記事項に変更があった場合には建物表題変更登記が必要となります。
これは、変更があった日から1ヶ月以内に行わなければなりません。
もし行わない場合には「10万円以下の過料に処する」と規定されています。
現在までに建物表題変更登記を行わなかったとして10万円以下の過料となった事例はないようですが、これから先もそうだとは限りません。
近年では増築部分を含め、未登記の建物が増えてきています。
東日本大震災の影響で、相続登記の義務化も検討されています。
それに伴い、この先未登記の建物に罰則規定が適用されることは現実的に十分ありえると言えるでしょう。
未登記の場合の相続登記の手続き方法は?
増築部分が未登記の場合、相続登記の手続きはどのような方法で行うのが良いでしょうか?
相続する時点で未登記のまま、登記をする場合を前提とします。
相続登記後に増築部分を登記するためには、増築部分について「被相続人に所有権があった事実」と「増築部分の所有権を相続人が相続した事実」の証明が必要となります。
被相続人に所有権があった事実は増築工事の建築確認申請書や工事完了引渡証明書、増築工事代金の領収書などで証明ができます。
相続人が相続した事実は戸籍と遺産分割協議書で証明できますが、増築部分についても相続する旨の記載がなければいけません。
そのため最初から遺産分割協議書に「増築部分についても相続する」旨を記載しておくて良いでしょう。
また可能であれば、相続登記の前に表題変更登記を申請するようにしましょう。
相続人を決定し、表題変更登記をしてから所有権保存登記をすればスムーズです。
未登記の増築部分を相続登記するために必要な書類は?
未登記の増築部分を相続するためには、先ほどご説明したとおり「被相続人に所有権があった事実」を証明する書類と「増築部分の所有権を相続人が相続した事実」を証明する書類が必要となります。
この書類には、相続人全員の同意と印鑑証明書の提出も必要です。
ただし増築部分がかなり前に行われ所有者も亡くなっているとなると、所有権を証明するための引渡証明書や領収書などが手元にない場合もでてくるでしょう。
その時は納税証明書や名寄せ帳などでも代用できる場合があります。
必要書類は状況によって変化するので、土地家屋調査士に聞いてみると良いでしょう。
さらに増築部分を登記するためには、増築後の各階平面図と建物図面が必要となります。
建物表題変更登記であっても新築時に行う建物表題登記とほぼ同じ書類が必要となるため、登記には7~9万円程度の費用がかかると言われています。
増築部分の未登記は放置しない!
増築部分が未登記のままになっている建物は、多数存在します。
所有者が生きているうちは問題は表面化しにくいのですが、相続となれば一気に複雑化してしまいがちです。
増築部分が未登記の建物については、あらかじめ遺産分割協議書に増築部分も相続する旨を記載しておきましょう。
建物表題変更登記は法律上の義務となっています。
相続登記の前に、表題変更登記を行うようにしてください。