建築士を目指したり、住宅の設計に興味を持たれたりする方の中には、「台所の採光問題」が気になる方もいるのではないでしょうか。
建物はすべて建築基準法を守って設計する必要があります。
「台所には、採光のための開口部を居室の基準を守って設けなくてはいけないのか。」
その答えをご説明しながら、「居室」についての制限や、建築基準法改正についてのお話をしていきます。
建築基準法における「居室」とは!台所は居室?
建築基準法によると、台所は居室に含まれます。
住宅の小規模な台所で、採光の規定について居室とされていないケースもありますが、居室の定義としては「居住、作業、集会、娯楽などの目的で使用し続けること」です。
応接室、書斎、寝室、子供室などは、狭くても居室とみなされます。
一方、玄関、トイレ、バスルームや洗面所、車庫、階段などは居室ではありません。
一般的な住宅以外では、食堂、事務室、病室、診察室、ナースステーション、待合室、売り場、宿直室、教室などが居室として考えられます。
映画館の客席やホテルのロビーも居室になります。
居室とは言えないものは、機械室、リネン室、階段室、更衣室、倉庫などです。
ただし、公衆浴場における浴室は居室となります。
建築基準法の「居室」には、採光や換気などに決まりがあります。
台所が「採光の規定について居室とされていないこともある」という点については、後にご説明します。
換気と採光についての規制!台所に採光計算はいらない?
基本的に、窓の無い居室は建築基準法違反となります。
自然換気・自然採光という規制があり、健康で文化的な最低限の基準に合った設計でないと審査に通りません。
もし、窓や隙間が一切なく閉めきったスペースで長時間過ごしていたら、きっと気分が悪くなってしまいますよね。
換気については、「居室には原則として、換気のための窓を設け(中略)居室の床面積の1/20以上としなければ」という規制があります。
採光は「採光に有効な部分の面積は、居室床面積に対して1/7以上(住宅)」と定められています。
換気は換気扇でもできますが、昔は換気扇の性能が低く、窓を開けて直接外気を取り入れることが重視されていたのでしょう。
採光についても、現在のように紫外線が大敵だとは思われておらず、日光浴などの健康法がありました。
日当たりがよく換気が十分にできる部屋はカビが生えにくく、衛生的に保ちやすくなることは確かです。
また、台所においては、地域によっても異なりますが、例えば下記の場合には例外的に「採光計算が必要でない」と判断されることがあります。
・調理だけの用途(その場所で食事をしない)
・面積が狭い
・ほかの部分と明確に区切られている
つまり、短時間しか使わず、他のスペースに調理中の煙や臭いなどがダイレクトに伝わらないような台所だと考えられます。
台所以外も確認!居室とみなされないスペース
台所以外にも、居室なのかそうでないのか基準が曖昧な場所はあります。
廊下は居室ではありませんが、「室」として考えることもあります。
以前は廊下を居室とはみなさないことになっていましたが、防災意識の高まりとともに避難安全検証法が生まれ、廊下を「室」として建築基準法の規定に合う状態に設計することになっています。
また、浴室についても「一般住宅のバスルームは居室ではない」「公衆浴場における浴室は居室」と前述したように、少し複雑になっています。
高齢者が利用する介護老人保健施設の浴室などは、居室かそうでないか判断が難しいことがあります。
とはいえ、継続的にデイサービスなどに通っている高齢者が多いことから、十分な防火・避難対策のために居室とするケースが多いでしょう。
また、学校や施設などに設けられる相談室。
これは居室だと考える方も多いと思いますが、「いずれ使わなくなる」「狭い部屋でよい」などのことから、窓がない部屋が採用されることもあります。
建築基準法で定められている居室に対する制限とは
ここまでは、「台所は居室として採光計算が必要か」「居室とはどういった場所のことか」などの点をご説明してきました。
この項では、建築基準法における居室に対する制限をまとめておきます。
まず、「防火・避難」にかかわる制限は下記の通りです。
・排煙設備の設置
・非常用照明の設置
・壁・天井の内装仕上げについての制限
・所定の開口部がない場合に必要な、区画についての制限
こうした内容について、建築基準法や建築基準法施行令で記載されています。
「土砂災害特別警戒区域内における居室を有する建築物の構造」も確認する必要があるでしょう。
この防火・避難についての基準は特に細かく定められていますが、その他にも忘れてはいけないこととして、「環境・衛生」にかかわる制限があります。
採光のために必要な開口部、換気のために必要な開口部、天井・床の高さ、地階にある居室についてなど、様々な基準があるのです。
もし建築士を志すのであれば、しっかりと覚えておきたい項目です。
建築基準法は変化していく
建築基準法は、これまで改正を繰り返し、時代のニーズに合うように変化し続けてきました。
1950年に制定された当初は、居室についても細かくあれこれと定められてはおらず、短期間で理解できるような法律でした。
しかし、今では分厚い法令になり、建築士試験の難易度は上がってきています。
建築基準法が改正されていくのは何故かと言うと、大きな理由としては「災害による被害を少しでも減らすため」ということが挙げられます。
火災や地震、事故などが起こり犠牲者が出ると、「より安全な建物を建てるためにどうすればいいか」ということを考えて法律の見直しが行われ、改正されることになります。
排煙設備、非常用照明、耐震設計など規定が定められるごとに、設計・建築にかかわる方々は臨機応変に対応しなければいけません。
また、社会問題への対策として建築基準法が緩和されたこともあります。
少子高齢化対策に取り組むという意味合いで、「木造建築をめぐる多様なニーズへの対応」「建築物・市街地の安全性確保」「既存建物ストックの活用」という点の改正が行われました。
これにより、第6条第1項第一号特殊建築物(一号建築物)の面積が100m²から200m²になったり、耐火建築物の対象が見直しされたりするなど、見逃せない改正内容となっています。
次項では、台所の採光についての一部の方の意見を取り上げます。
台所の採光についての現場の声
さきほど「採光計算が必要でない居室になることもある」と台所をご紹介しましたが、賃貸で狭い台所であっても、窓が無い物件はあまり見かけません。
マイホームを建てる場合でも、狭いキッチンというのは人気がありませんので、DK、LDKのような広いスペースがとられ、ほとんどの場合に採光計算は必要になってきます。
確かに、陽の光に当たることで骨や歯を健康的にするビタミンDがつくられたり、体内時計の調整ができたりとメリットもあります。
しかし、専門家の中には、自然採光や自然換気について「時代に合っていない規制」と考える方もいるようです。
というのも、紫外線は日焼けするだけでなく、日常的に浴び続けることによって活性酸素が増えて長寿ホルモンが減ったり、皮膚へも良くないとも言われています。
また、暑さは年々厳しくなり、窓を閉め切ってエアコンを使用する方も増えています。
花粉症に悩む方も多く、防犯意識も高まっていますので、窓の大きさや多さに魅力を感じる方は少ないのではないかという見解もあるようです。
今後、建築基準法に何らかの変化があることも考えられますので、住宅の在り方も変わることがあるのかもしれません。
台所は居室だが採光計算が必要ないこともある
台所は、寝室や子供部屋と同様に居室となりますので、しっかりと換気できる空間であるべきです。
しかし、「自然採光のために大きな窓がなくてはいけないか」とも言い切れず、時には採光計算が必要ない場合もあるということになります。
・調理だけの用途
・面積が狭い
・ほかの部分と明確に区切られている
こうした台所であれば、「自然採光」に限り例外と見なされることがあるようです。