2004年に不動産登記法が改正されるまで、土地を取得すると法務局で「所有権移転登記」を行い、登記が完了したら、「登記済権利証」を受け取るという流れになっていました。
この登記済権利証が、言わば「権利書」もしくは「権利証」と呼ばれるものです。
この権利書をもしも紛失したらいったいどうなるのでしょうか?
また、その場合再発行は可能なのでしょうか?
ここでは、土地の権利書や、権利書に代わって交付されることになった登記識別情報の疑問についてもお答えしていきます。
土地の所有権移転登記はなんのために行う?権利書に代わる登記識別情報とは?
土地を購入したり相続したりすると、法務局に所有権移転登記を行います。
そもそも、どうしてそのような手続きが必要なのでしょうか。
まず、不動産登記は、その土地や建物が誰の所有物なのかをはっきりさせるという意味合いでなされています。
つまり、登記をしておかないと、その土地や建物が自分のものであることを証明できないということです。
自分の大切な財産を守るうえでも、登記を行うことは重要だとおわかりいただけるかと思います。
所有権移転登記が完了された場合に発行されていた登記済権利証、つまり権利書ですが、2004年に不動産登記法が改正されてからは交付されず、代わりに登記識別情報が交付されることになりました。
(権利証とも呼ばれますが、ここでは権利書で統一いたします。)
登記識別情報とは登記する名義人がその登記を申請していることを確認するための情報のことで、法務局によって12桁の英数字で設定されます。
この12桁の登記識別情報を知っている人物が、不動産の権利を持っているという考え方になります。
それでは、自分の財産だと主張するためのものである権利書を紛失したり、登記識別情報を失念してしまった場合はいったいどうしたらいいのでしょうか。
権利書を紛失・登記識別情報を失念してしまったらどうする?
「火事に遭ったときは権利書は忘れずに持ち出す」とも言われていたように、権利書は昔から重要な書類という位置づけでした。
その権利書を紛失したり、登記識別情報を失念してしまった場合はどうしたらいいのでしょうか。
まず、紛失・失念してしまっても、再発行はできません。
権利書や登記識別情報の発行は、後にも先にもそれ一度きりです。
もしも、土地を売却するとなったら権利書が必要になりますが、紛失してしまったら下記のような対応をとることになります。
●事前通知制度
土地の売却時に不動産登記申請をする際、権利書を紛失したため添付できないという旨を記入します。
そうすると、法務局から本人限定受取郵便の形で事前通知が郵送されます。
この事前通知書に実印を押印して返送することで、法務局は土地の所有者自身が間違いなく申請したという旨を初めて確認できるのです。
しかし、何らかの理由で返送ができなかった場合、登記申請は却下されることになります。
そうすると、土地の買主に名義を変更することができなくなってしまいますので注意が必要です。
土地売却時に必要な権利書を紛失した場合の対応策
前項に続いて、土地売却時に必要な権利書を紛失してしまった場合の対応策をご紹介します。
●司法書士による「本人確認情報」の作成
本人確認情報とは、その土地がこの所有者であることに間違いがないと司法書士の責任によって証明するものです。
本人確認情報は、権利書や登記識別情報の代わりになる重要な書類となります。
本人確認情報の責任の所在が司法書士自身になることから、費用は一般的に高額となっています。
●公証人による「本人確認情報」の作成
本人確認情報は、司法書士だけではなく公証人が行うことも可能です。
司法書士に依頼するより、費用を抑えることができます。
また、登記申請と同時に本人確認情報が提供されるというメリットもあります。
しかし、公証人が行う本人確認は司法書士の本人確認と比べると簡易的に行われるという側面があります。
そのため、何かが起きたときの責任の所在がはっきりしないというデメリットもあるのです。
つまり、万が一訴訟になった場合に、登記申請が無効になってしまう可能性があります。
ですから、司法書士に本人確認情報の作成を依頼する方がリスクを抑えることができると言えるでしょう。
権利書を紛失してしまった場合、土地を売却する際にはこれらのような対応が必要となります。
しかし、それが「相続した土地」であればまた話は別です。
次項でご説明いたしましょう。
相続した土地であれば権利書を紛失しても問題なし
土地を相続した場合、もともとの権利書や登記識別情報を紛失してしまって手元にないというケースが実は多くあります。
しかし、相続の場合は権利書を紛失してしまっても特に問題はありません。
なぜかと言いますと、不動産を相続した場合は、相続登記を行う際に新しく登記識別情報が交付されることになっているからです。
しかし、例外もあります。
それは、被相続人の登記簿上の住所と現在の住所が違う場合です。
法務局は住所と名前が一致することで、土地の名義人であるかどうかを判断します。
そのため、住所が一致しなければ、本当にその土地の名義人なのかが判断つかないため、法務局としては受理できなくなるのです。
このような場合は、登記上の住所までの変遷が分かる住民票や戸籍などの附票を添付すればいいことになっていますが、住民票の保管期限は5年なので、それがなかなか難しいというのも事実です。
そうなると、「上申書」を作成して法務局に提出申請することになるのですが、個人で行うのは難しいので司法書士に相談することをおすすめします。
土地の権利書を紛失したら悪用される危険性はある?
もしも、土地の権利書を紛失してしまったら、悪用されてしまう危険性はあるのでしょうか。
結論から申し上げますと、簡単に悪用される危険性はさほど高くありません。
そもそも、土地の名義を勝手に変更しようと思っても、権利書だけでは手続きができないのです。
権利書に加え、名義人の印鑑証明書と実印が必要になります。
しかし、空き巣被害などでそれらが他人に渡ってしまったとしても、土地の所有権を奪われるということにはなりません。
万が一名義変更がされてしまっても、不正に登記されたものだと証明できれば、最終的には所有権移転登記を抹消することができます。
しかしながら、このような場合は裁判を行うこととなるでしょうから、手間や時間、費用がかかってしまいます。
そのようなことにならないためにも、権利書や実印などはしっかりと保管しておくことが得策と言えます。
土地の権利を守るための不正登記防止申出とは?
土地の権利書を何らかの理由で紛失してしまい、何者かに所有権移転登記を行われる可能性がある場合など、「不正登記防止申出」をすることができます。
不正登記防止申出は、第三者が登記申請を行った際に申出人宛にその旨を知らせるという制度です。
知らせが届けば、何者かが登記申請を行おうとしていることを知ることができます。
しかし、不正登記防止申出の有効期限は申し出から3か月以内と定められているので、長期にわたってこの制度を利用することができないのが難点とも言えます。
もしも、権利書ではなく登記識別情報が記載されている書類を紛失してしまった場合は、「登記識別情報の失効申出」をすることができます。
この制度を利用することで、12桁の登記識別情報を失効させることができます。
そうすると、その登記識別情報を使って不正な登記申請ができなくなるのです。
登記識別情報の失効申出に関しては有効期限はありませんので、万が一登記識別情報を紛失してしまった場合は法務局に相談してみましょう。
土地の権利書や登記識別情報は大切に保管しよう
土地の権利書や登記識別情報は再発行してもらうことはできません。
紛失してしまったとしても悪用されるケースは少ないでしょうが、土地を売却する際には手間や時間、費用がかかってしまいます。
ですから、土地の権利書や登記識別情報は実印や印鑑証明書とは一緒にせず、大切に保管することを心がけましょう。