家を建てる前に盛土をすすめられ、「土を持ってきて盛って締固める」という説明をされたものの、その目的や安全性についてもっとくわしく知りたいと思う方もいらっしゃるでしょう。
盛土について調べると、「地震に弱い」などの気になる情報を見つけて不安になることもあるかもしれません。
「一時的に締固めたとしても、後で地盤が変化するのであれば意味がないのでは」と考えることもあるでしょう。
今回は、盛土の種類や過去の被害例、また沈下についての基礎知識などをご紹介していきます。
盛土の目的とは?
子供のころに泥だんごを作ったことがあるなら、石などの異物を混ぜた泥だんごが壊れやすいのはご存知ではないでしょうか。
水分を抜くことで硬くなり、摩擦をかけても亀裂が入らない大きな泥だんごを作ることができます。
土の質も大切で、固まりやすい土と、水を含ませて強く握っても固まらない土があります。
盛土を簡単にご説明すると、傾斜があったり低くなっている土地に土砂を盛り、地盤を上げて凹凸のない状態にすることです。
土砂を盛ったら、しっかりと締固めて長い期間をかけて強い地盤になるのを待つことが多いでしょう。
硬い泥だんごを作るのも大変ですが、盛土で強い地盤を造るのはもっと大変です。
盛土には、造成地盛土、道路盛土、鉄道盛土、河川堤防、海岸堤防などの種類があります。
交通荷重に耐える、家を支えるといった目的の他にも、川や海沿いの止水や防水のために行われています。
さらには、貯水という役割を担う場合もあります。
盛土計画を立てる際には、形や大きさだけでなく、崩壊・沈下が起きた場合の被害や復旧の難易度なども考える必要があります。
「建物を支える」という目的であれば、「支えるための力が十分にあるか」「のり面が安定しているか」「沈下量や不同沈下が少ないか」ということが条件になります。
日本において盛土が盛んに行われてきたのは、「山地が多い」「使える土地が限られている」といった理由があります。
盛土を締固める目的
盛土を締固めるためには、難しい計算式を使って安定性を確かめながら作業を行う必要があります。
その後検査が行われ、地盤が落ち着くまで期間を置きます。
過去、盛土にどのような問題が起きたのか知らない方は、締固める理由、目的について知りたいと思うこともあるかもしれません。
「そんなに厳しく行う必要があるの?」と疑問に思うのも無理のないことです。
しかし、震災時に深刻な被害が見られたのが、大規模盛土造成地と言われる高度経済成長期に造成された土地です。
当時は、盛土の傾斜角度や締固めの基準などが細かく定められていなかったため、軟弱な地盤の上に家が建てられたり、道路が造られたりしていました。
地震の被害をニュースなどで見た際に、高速道路に亀裂が入って崩落しているところを見たことがあるのではないでしょうか。
高速道路の盛土は駿河湾地震や東日本大震災、熊本地震などで、たびたび崩落しています。
盛土を締固める目的は、経年や震災による崩壊や沈下を防げる強い地盤にすることなのです。
締固めてから盛土が安定するための期間とは
盛土では地面に砂を打ち込む作業(サンドパイル)で地盤改良し、土を盛り、場合によっては排水パイプを埋め込んで土の水分量を調整するなどして、しっかりと締固めていきます。
安定するためには3年~5年かかるとも言われていますが、これはあくまでも目安です。
異物が土に混じっていて、なかなか地盤が安定しないこともありますし、建物を建ててから地盤が変化し、数年後に沈下が起こってしまった事例もあります。
耐震性を向上させる目的で、さまざまな基準が設けられた後に造成された盛土でも、不安要素がゼロになるとは言えません。
浅い盛土の1m程度の表層崩壊であれば、盛土の機能に大きな影響を及ぼすことは少ないですが、深い盛土崩壊や基礎地盤ごと崩壊するような場合には重大な被害が懸念されます。
盛土を締固める目的の一つ「沈下」
どのような盛土でも、しっかりと締固める目的を理解して、可能な限り地盤を安定させることが必要です。
ここまで、何度か沈下という言葉を使ってきましたが、どのようなことなのか詳しくご説明します。
その言葉通り「地盤が沈んで下がる」ということで、水分を多く含む地盤で発生することが多いです。
樹木を抜いた後やゴミ捨て場跡、池などの埋め立て地でも沈下のおそれがあります。
所有する土地の隣に、高いビルなどが建っていて、地盤に強い負荷がかかっている場合も注意が必要です。
特別な重さがかかるほうに地面が傾いていき、沈下が起こることもあるでしょう。
建物に影響を及ぼす部分が、すべて均一に沈んでいくのであれば建物の崩壊にはつながりませんし、住んでいる方も最初のうちは気が付かないかもしれません。
しかし、建物を支える地盤の一部分だけが沈下し、それによって建物が傾いてしまい、ゆがみが発生することがあります。
これを不同沈下と呼びます。
気が付くと、床が傾いていたりドアが閉まらなくなったりするなど、建物が変形していくのです。
盛土と切土の境にある家はリスクが高い
盛土を締固める目的、意味について調べていくと、盛土への不安感が高まっていくかもしれませんね。
しかし、盛土は「宅地造成工事規制区域」のような、危険性の高い場所で安易に行われることはありません。
災害時に被害が大きくなる可能性のある土地に盛土をする場合には、都道府県による許可・認可が必要になります。
また、周りの土地よりも低くなっている土地に、浅い盛土を行うような場合は、盛土して何年も待たずに建物を建てることができます。
危険と言われているのは、盛土と切土の境界に建てた家です。
切土は、他から土を持ってくるのではなく、斜面などの土を削って凹ませて平らな地盤を造る方法で、盛土よりも安全性が高くなります。
盛土と切土の境に家がある場合、盛土の部分だけが沈下・崩壊して切土の部分は状態は変わらないという事態になることも考えられます。
それにより、被害が広がる恐れもあるでしょう。
しっかりと締め固めた盛土のメリットも知っておこう
盛土でしっかりと締固める目的や、沈下についてのご説明をしてきました。
厳しい基準をクリアして、安全性が高い盛土を造ったとしても、震災の規模が大きければ絶対に崩れないという保障はありません。
しかし、建物の倒壊という視点で見れば他の地盤でもリスクはあります。
また、道路の盛土には大きなメリットがあります。
高速道路は高架構造にすれば安定感が強くなりますが、工費がかかることはもちろん、景観を損ねます。
その点、盛土なら工費が安く抑えられます。
地震が起きた際に、盛土が津波をせき止め、住民の避難場所となった例もあります。
道路や堤防なら、震災で崩れたとしても復旧しやすいと言えるでしょう。
盛土は土を持ってきて締固めるだけだからです。
駿河湾地震の時、東名高速は5日間の速さで復旧しました。
このように、日本において盛土は欠かせないものであり続けるでしょう。
盛土には一定のリスクがある
盛土は耐震性に不安要素があると言われており、安定させるためには経験と技術と時間が必要です。
しかし、今は細かい計算式などで基準を導き出すことができますし、調査も行われます。
マイホームを建てる前に業者の提案に不安を感じるようなことがあれば、よく話し合って納得してから進めるようにしてください。