建物が鉄骨造の場合、柱や梁に「耐火被覆(たいかひふく)工事」を行なう必要があります。
そこで、「どうしてそのような工事が必要になるのか」「どういった工法例があるのか」ということについて、お話ししていきます。
また、記事の後半では、防火に関する基準なども取り上げますので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
鉄骨造とは?鉄筋造との違いもチェック!
耐火被覆工事についてお話しする前に、まず「鉄骨造」を掘り下げてみましょう。
アパートやマンションなどの集合住宅は、鉄骨造や木造、鉄筋造などの建築構造で分類されています。
今回取り上げる鉄骨造は、骨組みに鉄骨が利用されています。
建設コストは比較的安く、工期も短めです。
そんな鉄骨造にも種類があり、「軽量鉄骨造」と「重量鉄骨造」に細分化されます。
●軽量鉄骨造…鋼材の厚さが6mm以下の場合
・ブレース構造(柱、梁、筋交いで構成)に用いられ、小規模な建物や住宅に多い
●重量鉄骨造…鋼材の厚さが6mm以上の場合
・ラーメン構造(柱と梁を接合)やトラス構造(三角形の部材で構成)に用いられ、大規模な建物に多い
鋼材の厚みが違うということで、やはり強度には差が出ます。
また、防音性も重量鉄骨造のほうが優れているようです。
そのため、賃貸の場合は家賃にもそれが反映されると言います。
ところで、鉄骨造と混同されがちなものに「鉄筋造」がありますが、その違いをご存知でしょうか。
鉄筋造は、鉄筋とコンクリートを組み合わせた構造です。
「RC造(Reinforced Concreteの略)」や「SRC造(Steel Reinforced Concreteの略)」は、鉄筋造のことを指しています。
肝心な耐火性においては、鉄筋造のほうが優位とされています。
ちなみに鉄骨造は、「S造(Steelの略)」とも呼びます。
鉄骨造の柱は火に弱い!?耐火被覆が必要
前項では、鉄骨造の概要や鉄筋造との違いについてお話ししました。
木造や鉄筋造の建物では、耐火被覆工事をほとんど見かけないと言いますが、それはなぜでしょうか。
実のところ、鉄骨造に使用されている鋼材は、熱に弱い建築材料なのです。
火災時の室温は、600度から最大1200度にまで上がることもありますが、むき出し状態の鉄骨柱は350度から500度程度で、だんだんと軟化してしまいます。
これでは建物の強度が損なわれてしまうので、耐火被覆工事が義務付けられているということです。
建物の構造や用途によって、耐火被覆の厚みは決められています。
鉄骨造の弱点を補うものこそが、耐火被覆工事であるというわけですね。
一般的には、「木は燃えやすいけれど、鉄は燃えにくい」と認識されているかもしれません。
しかしながら、鉄は高熱に弱いということを覚えておきましょう。
鉄骨造の柱を強くする!耐火被覆について
前項でも少し触れましたが、耐火被覆は高熱に弱い鉄骨造の建物を補強するために行なわれます。
建物の倒壊防止が目的になっており、セメント系の不燃材料を使用するのが一般的です。
工法によって配合は異なり、近年は可燃材料を用いられることも増えました。
耐火被覆工事をすることで建物の性能は上がり、火災時の人命を守ることにつながります。
極めて重要な役割を担っている耐火被覆ですが、なかなかイメージできないという方も多いでしょう。
そんなときは、大型ショッピングセンターなどの立体駐車場にある、柱や梁を思い浮かべてみてください。
きっと、ザラザラとしたセメントのようなものが吹き付けられているはずです。
こちらが耐火被覆の材料となります。
意外と身近にあることには驚きますが、それだけさまざまな建物で耐火被覆工事が行われているということがお分かりいただけるでしょう。
それでは次項で、耐火被覆工事の工法例をご紹介します。
具体的にどのような工事が行われているのか、さっそく見ていきましょう。
柱に安全性を!耐火被覆工事の工法例
ここでは、鉄骨造の耐火被覆工事の工法例をご紹介します。
一例ではありますが、どのような工法があるのか挙げていきましょう。
【吹付工法】
●半乾式吹付ロックウール
ロックウールとセメントを使用します。
空気圧送しながら吹付機(ガン先)で両者を混ぜ合わせ、柱や梁に吹き付けていきます。
高所での圧送が可能となり、大規模な現場でも活躍するでしょう。
軽量なうえに断熱性は高く、経年劣化が少ないのが特徴です。
見た目はあまり美しくありませんが、つなぎ目なく仕上がります。
●湿式吹付ロックウール
あらかじめ用意してある無機質結合剤(ロックウールやセメントを含む)と、水を練り合わせて使用します。
そちらをポンプで圧送し、ガン先エアで吹き付ける仕組みです。
ムラのない仕上がりで、施工能率に優れているのが特徴でしょう。
【成型板工法】
けい酸カルシウム板のような、板状耐火被覆を使用します。
柱や梁のサイズに合わせてカットし、金具などで取り付けていく工法です。
ペイント加工やクロス張りなどが可能になり、すっきりとした見た目に仕上がります。
【巻付工法】
高耐熱ロックウールや不織布を使用します。
柱や梁に耐火被覆材を巻き付け、ピンで固定する工法です。
耐火被覆材は軽くて作業しやすいため、工期の短縮につながります。
また、発塵を抑えることができるということも、かなりのメリットです。
防火基準や建物の構造を学ぼう!
鉄骨造の耐火被覆工事には、さまざまな種類がありました。
ここからは、防火基準での「構造」に着目してみましょう。
建物には防火に関する基準があり、構造によって分類されています。
①耐火構造
防火レベルは非常に高いとされているのが、耐火構造です。
建築基準法で定められた「耐火時間」によって性能が判断されますが、
・遮炎性(炎が屋外に噴出しない性能)
・遮熱性(温度を一定に保つ性能)
・非損傷性(建物の状態を維持する性能)
これら三つの要素も含まれています。
火災が起きたとしても、柱などの主要構造部はある程度耐えられることが求められます。
②準耐火構造
基準は耐火構造と変わりませんが、設定された耐火時間が短めになっています。
③防火構造
耐火構造や準耐火構造とは異なり、延焼させないことが目的になっています。
④準防火構造
防火構造との違いは、基準対象になっている範囲です。
防火構造は外壁と軒裏が対象で、準防火構造は外壁のみが対象となります。
「耐火建築物」はどの建物に当てはまる?
建物が鉄骨造だった場合には、柱や梁に耐火被覆工事が欠かせないことが分かりましたが、一部の建物には、「耐火性能」が義務付けられているのをご存知でしょうか。
基本的には、「特殊建築物」であるならば、「耐火建築物」の対象になります。
〈特殊建築物〉※それぞれ基準は異なる
・映画館、劇場、演芸場、観覧場、集会場、公会堂
・病院、宿泊施設、共同住宅、寄宿舎
・学校、体育館
・大型ショッピングセンター、マーケット、展示場、カフェ、ナイトクラブ、ダンスホール、遊技場
・倉庫
・自動車車庫、自動車修理工場 など
どれも人の集まりやすい場所であったり、被害が拡大しやすそうな建物です。
また、これとは別に、三階建ての建物が該当することもあります。
鉄骨造の建物には耐火被覆工事を!
この記事では主に、鉄骨造の建物に必要とされる「耐火被覆工事」についてお話ししてきました。
「鉄骨造は高熱に弱い」ということで、耐火被覆工事が欠かせません。
また、防火基準や構造についても簡単にご説明してきましたが、火災の被害を最小限にくい止めるため、重要な取り決めであることがうかがえます。
日頃から建物の安全性について考えてみるのも、大事なことかもしれません。