鉄骨造に対する耐火被覆の必要性とは?火災から家を守る!

防火地域や準防火地域に住む方は、「耐火被覆」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

地震大国である日本において、防火地域や準防火地域では、鉄骨造の建物に「耐火被覆」を施す必要があり、火災拡大を防ぐためにはとても重要なポイントになります。

この記事では、防火地域に関わる鉄骨造の耐火被覆について、その必要性を詳しくご説明していきます。

地域によって定められる耐火・防火のルール

まず、「耐火被覆」について知るためには、日本の防火事情について知らなくてはなりません。

プレートや活断層がひしめき合う日本は、大地震が極めて多い列島であり、特に都市部では地震による火災リスクは高いと言えます。

そのため、建築基準法においては、地震に対する建物の耐震性能はもちろん、その地域や環境に応じた「耐火・防火性能」のルールも厳しく取り決められています。

例えば、建物が密集した地域は火災時の延焼拡大のリスクが高くなるため、「防火地域」あるいは「準防火地域」に指定され、住宅の建築にあたっては耐火性能が求められています。

したがって、家を建てる際、建設地の防火関係の種別において、「防火地域」か「準防火地域」かを把握しておく必要があります。

「防火地域」とは、主要駅やビルが密集している火災が拡大しやすい地域であり、上記2つの地域の中では最も防火ルールが厳しくなっています。

その防火地域をぐるりと取り巻くように密集している住宅地域は、「準防火地域」に指定されることが多く、この2つの地域は「鉄骨造における耐火被覆」に関わります。

鉄骨造に求められる耐火被覆の必要性とは?

では、そもそも「耐火被覆」とは何でしょうか?

「耐火被覆」とは、火災時の熱から鉄骨造の骨組みを守るため、耐火性・断熱性に優れた材料で柱や梁を被覆することを指します。

一般的に、木は燃えやすいことから、木造よりも鉄骨造の方が火に強いというイメージがあることでしょう。

しかし、実は鉄骨造の方が火災に弱く、鉄骨自体は熱にとても弱い建材と言えます。

まず、木造の場合、木材には空隙(くうげき)という空気を含んだ隙間が点在しており、それが熱伝導を妨げる役割を果たします。

また、木材は表面からゆっくりと燃えていくので、急激に強度が低下する恐れもありません。

その一方で、熱に弱い鉄骨は、350~500度以上の熱を受けると急激に強度が低下し、軟化していきます。

例えば、アメリカで発生した「9.11」、いわゆる同時多発テロ事件では、旅客機に突撃された貿易センタービルが崩壊しましたが、これは航空機の燃料による火災に、鉄骨が長時間晒され続けたことが原因だと言われています。

つまり、火災によって長時間高温に晒され続けた場合、鉄骨は本来の強度を維持できずに、変形して倒壊してしまう危険性があると言えます。

そのため、耐火性能が求められる防火地域・準防火地域においては、「建物の倒壊防止」を目的とした、鉄骨造に対する耐火被覆が必要になっているのです。

鉄骨造には耐火被覆が必要!防火・準防火地域の建築ルール

防火地域や準防火地域では、鉄骨造の建物には耐火被覆が必要であることが分かりました。

では次に、防火地域や準防火地域での建築ルールについてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

まず、防火地域内に住宅を建てる場合、延べ床面積が100㎡を超える建物は「耐火建築物」にしなければなりません。

「耐火建築物」とは、火災の延焼拡大を防ぐための建築物で、耐火性・断熱性に優れた鉄筋コンクリート造や耐火被覆を施した鉄骨造を指します。

また、延べ床面積100㎡以下の建物についても、1、2階は耐火建築物または「準耐火建築物」、3階以上は耐火建築物が厳守となっています。

一方で、準防火地域内に住宅を建てる場合、4階建て以上、もしくは延べ床面積が1500㎡を超える建物は、耐火建築物にする必要があります。

また、3階建て以上、あるいは延べ床面積500~1500㎡の建物は、「準耐火建築物」かそれに準じた建物にしなれけばなりません。

「準耐火建築物」とは、建物の主要構造部である柱・壁・床・屋根・梁などが、耐火建築物の構造に準じた耐火性能を持つ建物を指します。

例えば、耐火建築物に不適格だった建材でも、主要構造部に耐火被覆を行うことで、準耐火建築物の基準に合致させることができます。

この他にも、これらの防火地域・準防火地域では、延焼リスクが高い扉や窓の開口部に対して防火対策を行うことが求められます。

地域によっては耐火被覆が必要な鉄骨造!その被覆工事は?

では、実際に鉄骨造に対して耐火被覆を施す必要がある場合、どのような工事が行われるのでしょうか?

まず、耐火被覆工事にはいくつか種類があり、被覆を施す建物の用途や部位などに応じて、その工法も変わってきます。

最も主流になっている工法としては、「ロックウール吹付け工事」が挙げられます。

「ロックウール」とは、玄武岩や天然岩石などの鉱物を主原料とした人造繊維で、断熱材として使われています。

細かい繊維の隙間に大量の空気を含んでいるため、断熱性に優れており、建築物や工業施設などで活躍しています。

ロックウール吹付け工事の中にも、「半乾式(半湿式)」「乾式」「湿式」の3つの種類があります。

・半乾式(半湿式)ロックウール吹付け

ロックウールとセメントスラリー(セメントと水の混合液)を吹き付けることで耐火被覆を行います。

この2つの材料は、耐火性・耐熱性に優れており、有害なガスを発生させることもありません。

施工では、あらかじめ工場で圧縮梱包したものを現場でほぐし、ホースで施工部分に圧送することができます。

・乾式ロックウール吹付け

あらかじめ配合しておいたロックウールとセメントを、吹付け施工機械で圧送します。

噴霧量に限界があるため、施工能率は高くはありませんが、機械を簡単に設置することができます。

・湿式ロックウール吹付け

あらかじめ配合しておいた無機質結合剤を、現場で水と練り上げます。

これを油圧ポンプで圧送し、吹付けていきます。

施工能率は非常に良く、ムラや粉塵が出ない特長があります。

耐火被覆はロックウール吹付け工事以外の工法も

前項のロックウール吹付け工事以外にも、耐火被覆の工法はいくつかあります。

では、引き続き見ていきましょう。

・成形板工法

ケイ酸カルシウム板を、耐火被覆板として使用する工法です。

被覆が必要な箇所に合わせて板をカットし、取り付けていきます。

表面の硬度が高いため、内装の仕上げ・下地としても使うことができる、メリットの大きい被覆材です。

・耐火塗料工法

鉄骨部材に耐火塗料を塗っていく工法です。

熱が加わった際に、耐火塗料が膨張することで断熱層を作り出します。

・巻付け工法

耐熱ロックウールを材料とする耐火被覆材を、鉄骨部材に巻きつけます。

ピンで留める簡単な工法なので、長期的な工事を必要としません。

また、粉塵が少なく、軽量で安定した品質になっています。

以上が、鉄骨造に耐火被覆を施す工法です。

基本的にロックウール吹付け工事が一般的ですが、依頼業者によく相談した上で耐火被覆を行ってください。

建物の種類で変わる火災保険!耐火被覆を施した鉄骨造は?

これまでに、鉄骨造に対する耐火被覆について、その必要性や工法などをご説明してきました。

ここからは、耐火被覆を施した鉄骨造に関わる火災保険についてお話していきます。

まず、住まいに対する火災保険は、その建物の構造によって保険料が異なり、構造に応じた「構造級別」に基づいて保険料を算出しています。

「構造級別」とは、燃えにくい、燃えやすいなど、建物の構造を示す区分と言えます。

簡単に言うと、燃えにくい建物ほど保険料は安く、燃えやすい建物ほど保険料は高くなります。

この構造級別は、コンクリート造、鉄骨造、木造などの「主要構造部の種類」や、「建物の性能」がポイントとなって判定されます。

住宅の構造級別の判定は、以下の通りになります。

M構造(マンション構造):コンクリート造や耐火建築物の共同住宅

T構造(耐火構造):戸建てのコンクリート造、鉄骨造、耐火建築物、準耐火建築物、省令準耐火建築物

H構造(その他):木造の共同住宅や戸建て

「省令準耐火建築物」とは、独立行政法人住宅金融支援機構に耐火性能を認められた建物を指します。

注意したいのは、木造建築の場合、耐火建築物や準耐火建築物、省令準耐火建築物に当たるものはT構造としてみなされることです。

また、鉄骨造の場合、耐火被覆が施されていれば耐火建築物に該当するので、M構造としてみなされます。

ほとんどの場合、住宅の火災保険はハウスメーカーなどがおすすめする保険に入ることが多いですが、以上のことはしっかりと把握しておいた方が良いでしょう。

火災拡大を防ぐために

住宅の建設地が防火地域、準防火地域である場合は、鉄骨造の建物に耐火被覆が求められます。

これは、鉄骨造の熱に対する弱さをカバーし、建物の倒壊を防ぐことが目的とされ、火災の延焼拡大を防止します。

耐火被覆には様々な工法がありますが、依頼業者とよく話し合い、その家に合った工法で耐火被覆を行うようにしましょう。