日本の木造住宅では、「継手(つぎて)」と「仕口(しぐち)」という匠の技が、建物の構造体で使われています。
日本の建築物に伝統的に使用されてきた手法ですが、継手や仕口は世界からも注目されています。
今回は、その継手と仕口にはどのような種類があるのか、また、継手や仕口の魅力に迫っていきます。
木造建築(木造住宅)における継手と仕口とは?
木造建築における継手と仕口の歴史は古く、その技術は平安時代から始まったとも言われています。
継手は、しっかりと計算し切り込みが入れられた木材と木材とをつなぎ合わせ、長さを出す手法です。
木材はできるだけ一本ものを使いますが、長さが足りないときにこの手法を取り入れる形になります。
仕口は、継手同様しっかりと計算されたうえ、切り込みが入れられた木材を直角もしくは角度をつけてつなぎ合わせる手法です。
使用する木材によって性質は異なり、その性質を見越して切り込みを入れることは、まさに匠の技とも言えます。
継手と仕口は、性質の異なる木材を一体化させることで、建物への衝撃を分散します。
そのため、強度があることが特徴でもあります。
さらには、経年変化によって劣化してしまった部分の木材に代わり、新しい木材を組み込むことができるのです。
つまり、建て直しなどをせず、劣化した部分のみを直しながら長期間にわたって建物を保持させることができる技術とも言えます。
また、継手や仕口は種類が多いのも特徴の一つです。
継手の種類
木造建築における継手や仕口には、たくさんの種類があります。
それらは、どのような部分に使われる部材なのかでも手法が変わってきます。
まずは、継手からご説明していまいりましょう。
●腰掛鎌継ぎ(こしかけかまつぎ)
下木に対して、上木で押えつけるように組み込む手法です。
主に、土台や桁の継手として使われます。
●追掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)
上木を下木にスライドさせて組み込む手法です。
こちらも主に、土台に多く使用されます。
腰掛鎌継ぎより加工が複雑なので、強度が高いとされています。
●大栓継ぎ(だいせんつぎ)
太く硬い木材で梁を固定し納める手法です。
よほどの技術がないとできない、難しい手法でもあります。
●腰入れ目違い鎌継ぎ(こしいれめちがいかまつぎ)
上木にねじれ止めとなる切り込みを入れる手法です。
切り込みの形状がかなり複雑なので、こちらも難しい手法と言われています。
木造住宅だけには留まらない!意匠的にも使われている継手の種類とは?
継手には他にも様々な種類がありますが、ここでは意匠的に使われる手法をご紹介いたします。
●四方変形(しほうへんけい)
木材の四面すべてに異なる継手が施されている手法です。
木造住宅よりも、神社仏閣などの建築物に使用されることが多いとされています。
●独鈷組(どっこぐみ)
複雑な形状の切り込みが入っている独鈷組は、大阪城の追手門で使用されている手法です。
木材をつないでしまうと、どのような形状になっているかわかりません。
そのため、見つかった当時はX線で解析することで形状がわかったようです。
●四方金輪(しほうかなわ)
四面すべてが金輪状態となっている手法で、独鈷組と同様、つないでしまうとどのような形状になっているか分かりません。
そのため、こちらも意匠的に使われる継手でもあります。
また、どの方向からの力にも耐えうる強さがあるという特徴があります。
仕口の種類
継手の次に、木造住宅で使用されている仕口の種類もご紹介いたしましょう。
●大入れ蟻落とし(おおいれありおとし)
木材それぞれに凹凸の切り込みを入れ、はめ込む手法です。
凸部分を大きくすることで、横揺れやねじれなどの力に耐えうる形状となっています。
●片蟻掛け(かたありかけ)
凸部分が片方だけ切り込まれている木材を、もう片方の木材にはめ込む手法です。
●平ほぞ差し(ひらほぞさし)
木材それぞれに凹凸の切り込みを入れ、はめ込む手法ですが、大入れ蟻落としとは異なり、凸部分は単純な形状となっています。
仕口にも、意匠的に使われる手法があります。
●土台隅差柄割くさび固め(どだいすみさしほぞわりくさびかため)
片方の木材に上広がりの穴をつくり、そこにもう片方の木材の柄の先のくさびを入れることで固定する手法です。
しっかりと固定してしまうので、はずすことが困難になります。
昨今の木造住宅ではあまり使われなくなった手法ですが、神社仏閣などでは使われている手法です。
それでは、これらの継手や仕口を使った現代の建築方法はどのようなものがあるのか、次項で見てまいりましょう。
継手・仕口が使われる建築方法は?
現代において、種類多くある継手や仕口はどのような建築方法で用いられているのでしょうか。
それはずばり「木造軸組工法」です。
木造軸組工法は在来工法とも呼ばれます。
日本古来の木造住宅の工法でもあり、古くは竪穴式住居でもこの工法が取られていたそうです。
技術が進歩するとともに、継手や仕口が使われるようになりました。
先ほどもお話ししましたように、継手や仕口は平安時代からの技術とも言われています。
木造軸組工法はそれほど規制がないので、間取りやデザインが比較的自由に決められるのが特徴でもあります。
しかも、リフォームがしやすいうえにメンテナンスも容易だとも言われています。
しかし、ここまで継手や仕口を説明してきましたが、実際に木材を使用しての継手や仕口を使う設計ができない建築士や継手や仕口の加工ができない大工さんがいるのも事実です。
そのため、昨今の木造住宅では木材を使用した継手や仕口が使われていないことの方が一般的になってきています。
継手や仕口に特殊な金物を使うと強度が増す!
木造住宅で使用される継手や仕口の構造については、建築基準法第47条で決まりがあります。
ただし、別に定められている構造計算で安全であると認められる場合においてはこの限りではありません。
具体的な内容に関してはここでは割愛させていただきますので、気になる方は建築基準法をご確認ください。
また、昨今では金物を使用しての継手や仕口が一般的になってきています。
その中でも、特殊な金物を使用する建築工法は、木造軸組工法の中でも「金物工法」ともよばれています。
建物は、地震が起きて揺れると、仕口などの接合部分が斜めに変形してしまいます。
また、縦揺れの地震であれば縦方向に力が加わるので、柱と梁が抜けてしまう可能性があります。
数種類ある木材を使用した継手や仕口でも単純な形状のものであれば、引き抜く力に耐えうることができません。
しかし、接合部分に特殊な金物を使う金物工法の強度は他の工法の約1.5倍になるのです。
ただし、それはあくまでも接合部分に関してなので、木材がたわむことに対しての補強はできませんのでご注意ください。
継手や仕口は日本古来の素晴らしい技術
昨今では、木造住宅で日本古来の技術である木材を使った継手や仕口はあまり見なくなってきたと言われています。
しかし、世界からも注目を浴びるたくさんの種類がある継手や仕口は、自慢のできる素晴らしい技術であると言っても過言ではないでしょう。
現代では神社仏閣などで意匠的に使われることも多い継手や仕口ですが、今一度、その魅力に注目したいものです。