木造住宅の強度を高める方法のひとつとして筋交いがありますが、「理想の入れ方」としてマニュアル化するのは難しいでしょう。
太い材質をたくさん使えば耐震性が高まるというだけではなく、向きやバランスも重要になってきます。
どういうことなのか、くわしくお伝えします。
木造の筋交いとは?大切なのは入れ方のバランス
地震や台風に強い建物を建てるために、木造住宅の軸組工法で採用されている耐力壁として馴染み深いのが「筋交い」です。
鉄骨造の場合にはブレースという呼び方をしますね。
柱と柱との間に斜めに部材を取り付けることで横からの力にも強くなり、木造住宅の耐震性を高めることができます。
筋交いの入れ方は、すべて統一されているわけではありません。
まず部材の太さ、大きさが違いますし、斜めに一本だけ渡す場合と「X」の形になるように、たすき掛けをする場合があります。
ツーバイフォー工法では、構造用合板を使った耐力壁を採用することもあります。
どちらの場合でも大切なのはバランスです。
建物の高さや広さに応じて適切な耐力壁を、バランス良く配置していくことが必要です。
過去の震災では、筋交いが多く入っていたとしても、残念ながら倒壊してしまう建物がありました。
もちろん震災の規模が大きければ、どんなに強く建てた家でも倒れてしまうでしょう。
とはいえ、耐力壁がバランスよく配されていることで、建物をより強くすることができるということは確かですし、建築基準法でも耐力壁についての基準が定められています。
木造住宅を頑丈に!筋交いの入れ方はバランス・量・接合金物がポイント
耐力壁はバランスが命で、筋交いの量や、接合力の高い接合金物についても、すべて法律で決められた基準をクリアしなければなりません。
さきほど、一部材だけ斜めに取り付ける方法(片筋交い)と、2つの部材をクロスさせる方法(たすき掛け)があるとお伝えしました。
建築を学び始めて日が浅い方も、片筋交いよりもたすき掛けを選んだほうが強いということはご存知でしょう。
それは間違いではないのですが、やみくもにたすき掛けを多く取り入れれば良いというわけではありません。
木造住宅を全体的に見た時に、耐力壁が偏ってしまうような入れ方ではいけません。
使う部材が少なくて済むというコスト面からも、片筋交いにはメリットがありますし、何よりも、バランスの良い構造にするために、片筋交いの適切な入れ方を知ることは役立ちます。
たとえば、間取りや日当たりといった希望を優先し、柱や壁の量が少ない設計にした際には、筋交いの強度や柱の太さは入念にチェックすることが大事になってきます。
木造の筋交いの入れ方!力が逃げるような向きに
片筋交いの基本的な入れ方は、木造一階建てであれば、建物を横から見た時に、天井から基礎部分に向かって内側に入るように斜めに取り付けます。
つまり、壁の外側から建物の中心に向かって斜めに行くようにするのです。
二階建てならば、二階部分は先述のような向きで取り付け、一階はその逆の方向に向かうように取り付けます。
つまり、一階の両隅において「天井から床」の方向が、建物の壁側へ「ハ」の字に向かうようにするわけです。
しかし、これが逆の場合もあります。
どういうことかというと、二階建ての建物の横から見た断面図で、壁から見て「K」の字になるような筋交いが取り付けられているということです。
耐震性の高い建物は、積雪や豪雨などで上から下にかかる力や、台風や地震で横から水平に加わる力を意識して建てられるものです。
地震や台風などで建物にどのような力が加わり、どう逃がさなければいけないのか熟知している職人なら、基本の向きをしっかりとイメージして取り付けるでしょう。
筋交いの入れ方で強度が変わる!
筋交いの入れ方は統一されているわけではないと書きましたが、入れ方次第で、木造住宅の耐力壁の強度が変わってきます。
力をうまく逃がす向きで片筋交いを入れていなかったり、たすき掛けの組み合わせ方がおかしかったりすると、何かあった時に筋交いが外れてしまったり、柱が折れてしまったりする可能性もあります。
たとえば、二階建てで、二階の筋交いが一階に向かって外側(壁側)の向きで取り付けられているとします。
(前項で、『逆の場合』としてご紹介した入れ方です)
そうすると上からの力は建物の弱い部分に逃げてしまい、柱が筋交いの接合部でポキッと折れてしまうかもしれません。
建物のすべての面に完璧な筋交いを入れていくというのも難しいかもしれませんが、できる限り効果的に筋交いを入れられる設計にすることが大切です。
そうした点をどの程度考えてプランを練るかというのは、建築士によっても若干違ってきます。
同業者から見ると首を傾げたくなるような設計で建てている現場もありますし、自由な間取りでも、計算しつくされた耐力壁の配置により、美しく強い建物を実現しているケースもあります。
マイホーム建築時に疑問に思ったことは聞いてみよう
素人の方でも、マイホームを建てる際に建物のことを学び、「これは筋交いの入れ方がおかしいのではないか」と不安に感じることがあるようです。
筋交いの向きについて取り上げましたが、実際のところはケースバイケースで違い、法律で定めた基準をクリアしていれば、細かい点は臨機応変に設計していくことになるでしょう。
「筋交いが少ないのでは?」と思っても、もしかしたら構造用合板を組み合わせているのかもしれません。
建物建築の際には完成前に中間検査がありますし、ハウスメーカーによっては社内検査が行われることもあります。
したがって、耐震性が著しく低い木造住宅になるというのは考えにくいことです。
とはいえ、もし疑問や不安な点があれば、営業や設計士、現場監督に聞いてみると良いでしょう。
筋交いはおしゃれに演出できる!?
ここまでは、筋交いの入れ方について述べてきましたが、最後に「おしゃれな筋交い」という内容を取り上げていきます。
新築、リフォーム、リノベーションなどで、筋交いや柱をあえてむき出しにして完成させることもできることをご存知でしょうか。
空間に柱や筋交いがあると邪魔なように思うかもしれませんが、実はおしゃれに演出させることもできるのです。
柱を活かしてハンモックを吊るして子供の遊び場にしたり、筋交いを間仕切りのように使ってインテリアコーディネートすることができるでしょう。
スペースを用途ごとに仕切りながらも視線が抜けて、開放感ある空間にすることができます。
柱や筋交いに一工夫するのも素敵です。
たとえば、塗装して統一感をかもし出したり、板を何枚か取り付けて棚を作ったり、スクリーンやカーテンで間仕切り効果を高めたりと、アイディア次第でいろいろな演出方法があります。
筋交いだけを金属製にして、木造住宅のあたたかみを引きしめるアクセントにするのも良いでしょう。
リノベーションで、「壁は取り除けても柱や筋交いは残さないといけない」というケースがあると思いますが、「あえて残した」という風に仕上げることもできます。
耐力壁は奥が深い!
筋交いは、災害に強い建物にするために、適切な太さのものをバランス良く、効果的な向きで取り付けていく必要があります。
しかし、耐震性については最低限の基準を守るだけにして、間取りや日当たり、コストカットを優先しているようなプランもあります。
一方、筋交いのベストな位置や向きにこだわり、これ以上はできないというほどバランス良く耐力壁を配置するプランもあるでしょう。
法改正にともない基準は厳しくなっていますので、建物の資産価値を重視するなら耐震性にはこだわりたいですね。