登記の錯誤とは、誤解や間違いによって行われてしまった登記のことで、「錯誤である」と認められれば無効にすることができます。
錯誤無効によって登録免許税として、その分の費用がかかります。
ここでは、錯誤についての基本知識から実務的な応用まで幅広くご説明していきます。
また、「善意の第三者」についても取り上げます。
錯誤による更正登記の費用は?「錯誤無効」の意味
不動産登記には、移転登記や保存登記、設定登記などがありますが、覚えておきたいものとして「錯誤による更正登記」が挙げられます。
登記簿を書き換えることになるため、変更登記とも似ていますが、すべてが同じではありません。
気になるのが、「更正登記にどのくらいの費用がかかるのか」という点ですが、それをお伝えする前に登記の錯誤についての基本知識をご説明します。
まず「錯誤」という使い慣れない言葉ですが、これは誤解して行われた意思表示という意味です。
登記においては、「単独名義で登記するべきだったのに、共有名義にしてしまった」などの事例が多いでしょう。
勘違いして登記した後に訂正できないということになると、間違った登記がそのままになってしまうため、「錯誤無効」が行えることは有益です。
この場合の「無効」というのは、「当然無効」や「絶対的無効」とは異なり、当事者の主張や満たすべき条件のある「取消的無効」、もしくは「相対的無効」です。
表意者に重過失があれば、錯誤無効とすることはできません。
もし錯誤無効が認められれば、更正登記、または抹消登記をすることになります。
更正登記の費用は1個1,000円!変更登記との違いは?
更正登記の費用としてかかる免許税は、不動産1つにつき1,000円です。
それほど高いわけではありませんが、無料で更正登記することはできません。
更正登記とは正しい登記に書き直すことですが、「登記をした当初の段階で間違いがあった」という場合に行われます。
変更登記というのは、「登記後に変更された事項を登記する」ということなので、先に述べた通り更正登記と変更登記は同じではありません。
登記名義人を単独名義にしなければいけないところを共有名義にしてしまった場合には、「更正登記」が適用になりますが、単独名義から共有名義に変わる場合には「変更登記」となるでしょう。
そして、更正登記を行う際には原因を書きこむ必要があります。
変更登記なら原因とともに発生年月日の記載が必要ですが、更正登記なら原因発生年月日を書かなくてもよいことになっています。
原因として「錯誤」、または「遺漏(記載漏れのこと)」「相続放棄取消」などと記入します。
ちなみに、更正登記は登記前後で関連性のある内容にのみ行われます。
▲さんから、▲さんと□さん、という例なら更正登記になりますが、▲さんから□さんという登記の場合には抹消登記が適切と考えます。
登記費用と併せて知っておきたい「不動産取得税の取消」
登記の錯誤無効にともなう費用をお伝えしましたので、不動産取得税についても触れておきます。
一度、所有権移転登記が行われた後に、契約上の内容に錯誤が認められて抹消登記が行われることもあるのですが、それならば不動産取得税も取消すべきだという考えもあります。
しかしながら、所有権の移転そのものは有効だと言える場合、そのまま課税されることになっています。
つまり取得の有無を確認した後に、不動産取得税の課税対象かどうか決めることになります。
こうした判断基準があるため、「錯誤無効による所有権移転登記の抹消」については注意が必要です。
売買契約の対象となる不動産について、何らかのトラブルがあったことを知らなかった売主が、不動産を購入してもらったという例について考えてみましょう。
いったん売買契約が成立し、課税対象となったものの、不動産のトラブルを後で知った売主と買主が、「錯誤による登記」として抹消登記手続を行うことができるでしょうか。
こうした場合、「錯誤」ではなく「合意解除」とみなされることもあるのです。
「錯誤」の意味について正しく理解するのが難しい、ということが分かるのではないでしょうか。
錯誤無効が認められないケースとは
登記で錯誤無効がすんなりと通らないケースは他にもありますので、費用などの実務的なことと共に知っておきましょう。
錯誤無効の条件としては、「要素の錯誤」、そして「重大な過失がないこと」が重要となり、この2点についての証明責任も発生します。
●要素の錯誤
誤解、勘違いがなければ表意者はその決定をしなかったということで、客観的に見ても誤解にいたる経緯を理解しやすいことを「要素」としています。
一般的に考えて誤解なんて起きるはずがないというようなケースの場合は、錯誤無効とならないことが多いでしょう。
●重大な過失がない
重大な落ち度があって錯誤が起きたケースでも「錯誤無効」を認めてしまうなら、当事者が不満を抱くとしても無理はありません。
客観的に見て明らかなミスがあった場合には、錯誤無効にならないことになっています。
【証明責任】
「要素の錯誤」なら表意者に証明責任があり、「重大な過失」なら表意者の相手となる当事者が証明責任を負うことになります。
登記の錯誤で抹消!利害関係者の承諾とは
登記の錯誤については、「利害関係者の承諾」という点も重要なのでお伝えします。
更正登記は抹消登記の意味を持つ場合もあるので、利害関係者からの承諾を得ることが求められる場合があるでしょう。
表意者だけの意思表示で更正登記を行うことによって、相手方や関係者が不利益を被ることも考えられます。
当事者の承諾書を添付して必要な費用を払い、更正登記を行うことになります。
変更登記は、利害関係者の承諾書を添付せずに行うことが可能ですが、更正登記は原則として承諾が必要です。
「原則として」とした理由は、錯誤無効の正当性を主張できるのに、承諾が得られない場合もあるからです。
もし承諾が得られないなら、「真正な登記名義の回復」という原因にして登記することもできます。
錯誤による意思表示取消は善意の第三者に対抗できない
「善意の第三者」という言葉は、不動産にかかわる法律を学んでいると目にする機会が多いでしょう。
登記の錯誤無効とも関係してきます。
錯誤によって意思表示を取り消す場合でも、過失のない善意の第三者には対抗できない(錯誤による第三者保護)ことが定められています。
判例を重ね、2020年に施行された民法改正で明確になりました。
善意の第三者とは、表意者と相手方以外に、表示目的において利害関係を持つにいたった人物を指します。
表意者と相手方が、無効となるような取引をした際に、何も知らずに相手方と契約を結んだ人と考えると分かりやすいでしょう。
問題点を知らずに仮装譲渡された土地を購入した人や、その土地で抵当権設定を受けた人は善意の第三者ということになります。
さまざまなケースがありますが、どうすればいいのか悩むことがあれば、司法書士に相談することをおすすめします。
手続きなどを依頼すると費用がかかりますが、インターネットなどから無料で相談する方法もあるのでご利用ください。
資格取得のために勉強されているのなら、これまでの法改正や事例を調べ、とにかく過去問を解き続けることで理解を深めることができます。
費用は少額だけど注意点は多い!錯誤無効
錯誤による更正登記、抹消登記の費用や条件などについてご説明しました。
不動産取得税と関係してくることもあり、正しく理解しておきたいものですが、微妙なところで「錯誤ではなかった」と判断されることもあるでしょう。
分からないことがあれば専門家に相談するか、過去の判例などを参考にして学んでみてください。