不動産の登記には、一定の効力が認められていることはご存知でしょうか。
しかしその中でも「公信力」に関しては、不動産登記では認められていないようなのです。
ではなぜ、公信力は認められていないのでしょうか。
この記事では不動産登記が持つ効力についてと、公信力が認められていない理由についてご説明していきます。
公信力が認められていない不動産登記にはどんな効力があるの?
不動産を取得すると、登記をすることになるかと思います。
その不動産登記には、効力があることをご存知でしょうか。
・権利推定力
・形式的確定力
・対抗力
の3つが挙げられますが、動産の占有には認められている「公信力」は、不動産登記では認められていません。
なぜ公信力が不動産登記では認められていないのか、については後ほどご説明しますので、まずは不動産登記が持つ3つの効力についてご説明しましょう。
まずは「権利推定力」についてです。
不動産登記は真の権利関係に基づいているという確実性が高いことから、登記された権利関係は真に存在するものだと推定されています。
これを登記の権利推定力といいます。
実際に不動産取引を行う際も、登記上の所有者を信じて取引されることが多いですから、登記の権利推定力が高いことがうかがえますね。
しかし注意しなければいけないのが、あくまでも推定であって確定ではないということです。
登記上の権利関係を信じても問題はないでしょうが、登記されている内容が必ず真実だということは保証されていないのです。
登記が持つ効力のひとつ「形式的確定力」って何?
不動産登記で認められない公信力についてのお話をする前に、もう少し不動産登記が持つ効力についてお話ししていきます。
つぎにご説明する効力は、「形式的確定力」です。
これは、登記を一度されてしまうと、その登記内容が異なっている場合であっても、すでになされた登記をないものとして登記することはできないというものです。
不動産登記では、真実とは異なる内容で登記されてしまうことがあるようです。
なぜかをご説明すると、登記申請をする際には、申請に必要な書類を管轄の法務局へ提出することになります。
提出された申請書類は、登記官によって不備がないかをくまなくチェックされます。
このとき登記官はあくまで書類に不備がないかを確認するだけで、記載された内容が真実であるかどうかの確認までは行いません。
不備がなければそのまま登記されてしまいますから、真実とは違う内容で登記されてしまうことにつながることもあるのです。
万が一異なる内容で登記をすれば、その登記は無効となりますが、無効であることがわかっても自動的に登記が修正されることはありません。
しかし、形式確定力によって、一度登記されたものを無視することもできません。
有効な登記にするためには、また一から登記の手続きを踏まなければならないのです。
そのため変更登記の手続きを一から行なったり、万が一全く知らない別の誰かに所有権登記をされていれば、真の所有者はまずその登記の抹消手続きをしたりしなくてはなりません。
抹消手続きが完了したあとで、自分が所有者であることを示すために、再度登記申請をすることになるでしょう。
登記の必要性にもつながる「対抗力」とは?
公信力が認められていない不動産登記が持つ3つの効力の中でも、特に重要といえるのが「対抗力」です。
これは、「この不動産の所有権は自分にある」というようなことを、第三者に対して主張することができるものです。
この効力に関しては、民法でも規定がされています。
簡単にご説明すると、民法第177条では、不動産に関する物件の変動などは、登記をしない限りは第三者に対抗することは不可と定めています。
つまり、登記をすることではじめて、自分にこの不動産の所有権があるということをほかの人にも主張することができる(対抗できる)わけです。
そのため、よく「不動産登記を行なわなくてはいけないのはなぜ?」と疑問に思う方もいるようですが、不動産登記の必要性は、この対抗力を得るためともいわれています。
それは、対抗力があることで不動産に関する自分の権利を守ることにつながるからといえるでしょう。
これについては、次の項で「二重売買」を例に解説をしていきます。
なぜ重要?対抗力があると自分の権利を守れるの?
不動産登記を行なう理由としては、対抗力を得るためともいわれています。
対抗力を得ることで自分の権利を守ることにつながるようですが、よりわかりやすくなるよう、ここで「不動産の二重売買」を例に挙げて解説していきましょう。
所有する不動産を売却したい「Aさん(売主)」がいるとします。
Aさんはまず、「Bさん(買主1)」に不動産を売却します。
Bさんは不動産を取得したことになりますから、所有権移転登記の手続きを行わなければなりません。
しかしBさんが登記をする前に、Aさんは同じ不動産を「Cさん(買主2)」にも売却したとしましょう。
そして、CさんはBさんよりも先に所有権移転登記をします。
登記をしたことで対抗力ができるので、先に不動産を取得したのはBさんですが、登記を先に行なったCさんですので、この不動産の所有権を主張することができるのは「Cさん」となるのです。
不動産を取得しても対抗力が認められる登記を行なわなくては、自分にその所有権があることを主張することはできません。
そうなれば、ここでのBさんのように、取得した不動産の所有権を守ることはできないといえるでしょう。
こういったトラブルを防ぐためにも対抗力のある不動産登記はやはり必須といえ、取得後はすみやかに行うことが大切ですね。
ここまで不動産登記が持つ3つの効力についてお話をしてきましたが、「公信力」に関しては不動産登記では認められていません。
次の項からは、この公信力についてお話をし、なぜ不動産登記では認められていないかについてもご説明していきます。
なぜ認められない?公信力ってどういうもの?
不動産登記が持つ3つの効力についてお話をしてきたところで、ここからは「公信力」についてのお話をしていきます。
まず公信力とは、真実には存在しない権利関係を信頼して取引した人を保護する効力のことをいいます。
特に不動産は1つ1つが高額ですから、登記の内容が保証されていれば安心して不動産取引が行えるようにも思います。
先ほどの二重売買をはじめとしたトラブルも起こりにくくなるでしょう。
しかし、不動産登記では、この公信力は認められていません。
つまり、登記されている内容が正しいかどうか保証されていないのです。
民法では動産の占有に関しては公信力を認めていますが、なぜ不動産登記では公信力が認められていないのでしょうか。
これについては次の項でご説明していきます。
不動産登記で公信力が認められないのはなぜ?
ではなぜ、不動産登記では公信力が認められないのでしょうか。
その理由として挙げられるのは、「取引の自由に反する面が生じるから」ということでしょう。
不動産登記で公信力が認められると、本当に登記された内容が真実であるかを、登記申請の際に審査しなければなりません。
そうなれば、不動産取引の安全性をはかるために、不動産の売買や贈与、相続などの権利の移動を、個人間で自由に行うのではなく、すべて登記官などによる許可制になってしまうことも考えられます。
これでは、取引の自由はなくなってしまいますよね。
また、登記官には大きな調査の権限を与えられたり、登記を申請する人の権利の証明を厳格にしたりするなどの手段が必要になることも考えられます。
こうした手段をとるには各法務局の人員を大幅に増やさなくてはいけなくなりますから、やはり不動産登記で公信力を認めることは難しいのが実情のようです。
とはいえ、不動産契約を行う場合は不動産会社を仲介にすることもあるかと思います。
仲介する不動産会社が登記内容が正しいかどうかの調査をしていますから、個人間で取引するよりは、不動産会社を仲介にして取引するほうが、不動産取引の安全性は高いことが多いといえるでしょう。
不動産登記が持つ・持たない効力を理解し、取引に活かそう
不動産登記では3つの効力があり、その中でも「対抗力」はとても重要な効力といえます。
自分がその不動産の所有者であることを主張できますから、不動産登記を行なう必要性にもつながる効力といえるでしょう。
しかし認められていない効力もあり、それは「公信力」というものです。
公信力がないことで不動産取引時にトラブルが起こることもあるでしょうが、不動産会社を仲介に入れることで、不動産取引の安全性を高めることにつなげられるでしょう。