登記の委任状を書くことになり、参考に雛形を見てみると、「印」のみで何も書かれていないことがほとんどです。
また、この「印」に捺印するものは実印なのか、または認印なのかの判断に迷うことも多いでしょう。
委任状に関する基本知識や、実印の取り扱いなどをご説明しつつ、実印が求められるケースとそれ以外のケースをお伝えしていきます。
登記の委任状が必要になるとき
登記のための書類は、専門家ではない限り目にすることが少なく、ましてや素人が人生の中で書く機会は少ないでしょう。
そのため、冒頭で述べた通り、書き方や実印か認印かなどのことで疑問に思うことがあるかと思います。
雛形はインターネットからダウンロードできるものもありますし、法務省の公式ホームページからも記載例を確認できます。
しかしながら、登記申請の手続きは大変になることも多く、時間と手間、そして専門的な知識が必要です。
そうした理由で、司法書士や弁護士に依頼するケースも多いでしょう。
もちろん専門家以外にお願いする場合でも、委任状を利用できます。
相続登記で、相続人全員の代表となる人物が手続きする場合でも、相続人全員の委任状を集めれば行うことができます。
つまり、何らかの事情により本人が登記できず、代わりの誰かに登記をお願いする場合に委任状を作成するということです。
不動産登記、贈与登記、相続登記など、さまざまな登記で委任状を使用できます。
委任状は実印?認印?相続登記の場合は
では、委任状に押す印鑑はどのようなものを使えばいいのでしょうか。
シャチハタをイメージする方は少ないと思いますが、「近くで安く購入できる印鑑を買ってきて、押せばいいのかな」と思う方もいるかもしれません。
さまざまな契約が簡略化していく現代社会で、印鑑を必要とせずに過ごしていることもあると思います。
それでは、委任状の場合にはどうすればいいのか知っておきましょう。
印鑑は、認印と実印とに分けられます。
認印というのは安い印鑑で、実印は高価な印鑑ということではありません。
ポイントとなるのは、印鑑登録をしているかということです。
自治体で正式に印鑑登録を行っている印鑑が実印で、行っていない印鑑が認印と呼ばれます。
登記申請で実印でなければいけないケースは下記の通りです。
●相続登記
不動産の相続登記をしなければいけない際に、実印を押すことが求められる場合もあります。
相続登記とは、不動産を所有する人物が亡くなり、相続人に名義変更を行う登記です。
相続人が複数人いて、手続きが煩雑になることもめずらしくありません。
遺言書を相続に使用するなら別ですが、協議を行って分配する場合には、それぞれが実印を押します。
そうすることで、「確かに本人が同意した」という証明になります。
登記に実印が必要な立場とは?売買・贈与・担保設定の場合
引き続き、登記で実印が必要な場合と、必要でない場合について見ていきましょう。
実印と同時に印鑑証明書の提出が求められるということも忘れないでおきたいところです。
●不動産売買の登記
不動産売買契約を結ぶ際、売主側の実印が必要です。
売主は登記義務者、買主は登記権利者と言い表すことができます。
登記義務者である売主の実印は必要ですが、買主は認印でも大丈夫です。
売主側の委任状なら、そこには実印が必要です。
●不動産の贈与登記
贈与登記の場合も、基本的には不動産の売却による登記と同じです。
贈与する人物が登記義務者となり実印を押印し、贈与を受ける人物が登記権利者となり、認印でもOKということです。
●担保を設定する登記
所有する不動産に、抵当権などを設定するためには実印が必要です。
まとめると、「相続登記は相続人すべての実印」「売却による不動産登記は売主の実印」「贈与登記は贈与者の実印」「担保設定登記は実印」です。
次項では、委任状についてさらに掘り下げてお話しします。
委任状は原本で出す!
実印が必要になるかどうかは、「失うか得るか」で判断できます。
不動産を手放す立場の人物は実印で意志を明確に証明しますが、取得する立場であれば実印でなくてもかまわないのです。
申請を行う当事者が不利となる登記において、実印を押すことが求められるということですね。
そして、委任状は原本で提出することも重要です。
委任状の原本は強い効力があり、基本的に返還請求を行うことはできません。
委任状の他にも、第三者の同意、もしくは承諾を証明する情報とともに提出する印鑑証明書や、申請書に押印した人物の印鑑証明書も原本で出す必要があります。
そのため、提出する前には原本のコピーをとって残すことが多いでしょう。
さきほど、登記に必要な書類の雛形はインターネットからダウンロードできるものもあると書きましたが、委任状にも雛形はあります。
無料でダウンロードできるのでご安心ください。
ただ、専門家に依頼する場合にはそこで準備されるものなので、それに署名・捺印をすれば作成できます。
実印を紛失していたら?
登記の委任状で必要になることもある実印ですが、紛失した場合にはどう対処したらいいのでしょうか。
実印が必要だと分かった際に、「前に登録したかもしれないけど、どこに行ったかな」と悩むこともあるでしょう。
実印を失くしたことが分かったら、なるべく早く紛失届を提出しなければいけません。
知らないうちに連帯保証人にされてしまったり、預金を使われてしまうことも考えられます。
実印登録を行った役場に届け出て、悪意の第三者による悪用を防ぐようにしてください。
紛失届を提出すれば、実印を手に入れた人物が印鑑証明書を出すこともできなくなります。
そして、警察にも紛失届を出しましょう。
実印と印鑑証明書の悪用によって、大きな損害が発生することも考えられます。
手続きの流れは、以下の通りです。
●役場と警察に紛失届を提出
●役場で改印届を提出
●新しい印鑑を用意して新規で登録
改印しないと、失くした実印の効力が残ってしまうので注意が必要です。
改印には、新印鑑・本人確認書類・申請書・印鑑登録カードを用意します。
また、代理人が改印を行うなら、本人から委任状を書いてもらい、代理人と本人の本人確認書類を準備しなければなりません。
委任状に実印を押したい!実印作成にかかる時間と費用
登記の委任状で実印が必要だということが分かり、新たに作ろうと考えている方のために、実印を作成するために必要な時間や費用をお伝えします。
認印なら安価なものでもかまいませんが、実印ならしっかりとした丈夫なものを選ぶべきでしょう。
印鑑屋で作成を依頼すると、3日~5日くらいの時間がかかる場合が多いようです。
インターネットでも購入でき、即日発送や2日で届くこともあります。
同じ名前の他の人と被らないようにオリジナルなデザインで作ろうと思うと、その分多くの時間がかかるかもしれません。
また、偽造されにくい手彫りの印鑑にも時間がかかるでしょう。
「職人におまかせして、2週間くらい時間がかかった」というケースもあるようです。
実印を作成する費用は、4,000円程度から20,000円と幅広く、素材やデザインによって変わってきます。
高級な素材は象牙ですが、黒水牛やチタンなどが人気です。
他にも琥珀、オランダ水牛、玄武などの素材があります。
実印は大切!きちんと保管しておこう
登記で実印が求められるのは、所有物を失う立場の方が申請を行う場合です。
得る立場なら認印でも問題ないということは、つまり実印が必要ない場合もあると言えます。
シャチハタや認印しか持っていないという方は、お手持ちの印鑑(シャチハタ以外)で印鑑登録を行うか、新たに実印専用のものを作成して手続きにのぞんでください。
そして、失くさないように大切に保管しましょう。