夢のマイホームの購入を検討しているとき、擁壁という言葉を始めて耳にする方もいます。
擁壁は、斜面や土壌の崩壊を防ぐものであるため、構造上の強度や耐久は非常に重要なものです。
そのため、あらかじめ擁壁に対するひび割れチェックと併せて、「水抜き穴」の確認もしておくことが大切です。
この記事では、擁壁のある住宅購入における水抜き穴チェックを始め、それに関する注意点についてご説明していきます。
擁壁のある住宅を購入する前に!そもそも擁壁とは?
住宅の購入を検討している場合、立地コンディションによっては擁壁のある住宅も少なくありません。
そもそも擁壁とは、斜面や盛り土が崩れ落ちるのを防ぐための構造物で、特に柔らかい軟弱な地盤に対し、擁壁による「土留め」が行われます。
また、高台や丘にある住宅地では、隣接する土地との高低差を埋めるために設けられます。
大地震の多い日本列島では、土砂崩れなどの土壌の崩壊が常に懸念されるため、特に宅地造成等規制法の区域内である場合、擁壁はその規制に沿ったものでなければなりません。
宅地造成等規制法とは、宅地造成に関する工事等において、土壌の崩れや土砂の流出による災害の防止のために必要な規制を行う法律です。
また、その区域外であっても、建築基準法による規制と上記の規定に準じた擁壁である必要があります。
住宅購入前の擁壁チェックとしては、ひび割れなどの亀裂はもちろん、「水抜き穴」の有無確認も忘れてはいけません。
擁壁にある水抜き穴とは?
擁壁の「水抜き穴」とは、どのようなものかご存知でしょうか。
水抜き穴は、擁壁の裏側に溜まる水を排水するもので、水分によって地盤が軟弱化するのを防ぐ役割があります。
宅地造成等規制法の区域内では、高さ2m以上の擁壁の場合、3㎡以内ごとに少なくとも1か所の水抜き穴の設置が規定されています。
また、集中豪雨や台風などの水害の危険性も考慮し、水抜き穴の口径は7.5cm以上であることが義務付けられています。
宅地造成等規制法の区域外でも、擁壁の設置が求められる場合は上記の規定に準じることがほとんどです。
ただし、全ての擁壁に規定通りの水抜き穴が設置されているとは限らないため、擁壁がある住宅を購入する場合は必ず構造上のチェックをしておく必要があります。
水抜き穴のない構造には注意!擁壁に関わるリスク
では、水抜き穴がない擁壁は、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。
水抜き穴がない場合、水のはけ口がない土壌は水分を多く含んでいき、地盤は次第に脆弱化していきます。
また、擁壁の裏側にかかる水圧が増すことによって、擁壁の隙間から水が染み出し、擁壁そのものの耐久性や強度は急速に低下していくことが予想されます。
さらに、集中豪雨や台風などの大雨があれば、擁壁が崩壊する危険性は著しく高まります。
たとえ水抜き穴がある擁壁でも、十分な口径がなかったり、水抜き穴に欠陥がある不適格な構造であれば、本来の排水機能を発揮することができず、擁壁の劣化は避けられないでしょう。
以上のように、擁壁には水抜き穴が非常に重要な役割をしているため、購入前には念入りに擁壁の調査をしておきましょう。
万が一、水抜き穴が無かったり、水抜き穴に欠陥が見られる場合は、専門家の調査を受けた上で、購入の検討を進めていきましょう。
擁壁のある住宅はあらかじめチェック!水抜き穴の構造と土砂の流出
前項では、水抜き穴がない擁壁の起こりうるリスクについて、詳しく見てきました。
では、実際に擁壁の水抜き穴をチェックする場合は、どのようなことに着目して確認すれば良いのでしょうか。
まず、水抜き穴のチェックとしては、その有無はもちろんとして、土砂が流出していないかの確認が大切です。
と言うのも、水抜き穴から土砂が流出してしまうと、流れた場所に空洞を作り出し、地盤沈下の発生リスクが高まります。
そのため、宅地造成等規制法施行令では、擁壁の水抜き穴に対して透水層(排水槽)の設置が求められます。
透水層とは、水の浸透しやすい素材を用いた層のことで、自然に流下されない土砂などを排除する役割があります。
つまり、水抜き穴の設置には透水層を設け、さらには穴の入り口に砕石等を置くなどの措置を行うことで、土砂の流出を防止する構造にする必要があるのです。
万が一、水抜き穴の内部に土が溜まっているようであれば、水抜き穴の構造に問題がある可能性があるので、注意してください。
また、もう一つのチェックポイントとしては、排水される水の色が挙げられます。
水抜き穴から異様な色の水が流れていれば、土壌に何らかのトラブルが生じていることが考えられます。
排出される水の色に不安がある場合は、専門家に相談してみると良いでしょう。
水抜き穴以外にも構造の調査を!見ておきたいチェックポイント
擁壁のチェックでは、水抜き穴以外にも調査しておきたいポイントがいくつかあります。
と言うのも、どれだけ耐久性や強度に優れた擁壁であっても、経年に伴いどうしても劣化していきます。
そのため、現地の擁壁調査では以下のポイントをチェックしておくことをおすすめします。
・表面の状態
擁壁表面にひび割れ、亀裂、剥がれ、ゆがみなどがないかをチェックしてください。
大きい亀裂がある場合は、専門家による調査が必要です。
・材質
擁壁に用いられる材質は、主に間知ブロック、鉄筋コンクリート(RC)、コンクリートが挙げられます。
現在では、ブロック塀による擁壁は禁止されており、玉石(たまいし)、大谷石(おおやいし)は、安全性の問題から、違反建築や既存不適格とみなされます。
ちなみに既存不適格とは、建築当時は適法であったものが、その後の法改正により、現行法に適さない建築物になってしまうものです。
・構造
注意したい擁壁の構造は、異なった材質が増積みされた「二段擁壁」です。
二段擁壁は安全性が認められておらず、違反建築になる可能性があります。
以上のように、いずれも目で見える形でチェックすることができます。
上記のチェックポイントで怪しい部分がある場合は、専門家による入念な調査を依頼すると良いでしょう。
水抜き穴に関わる隣家トラブルにも気を付けて!
これまでに、擁壁の水抜き穴や構造上のチェックポイントについてお話してきました。
最後に、擁壁の水抜き穴に関わる近所トラブルについてご説明していきます。
前述したように、区域や擁壁の規模によっては、水抜き穴の設置が求められますが、トラブルとしてよくあるのが、水抜き穴からの排水が隣家に流れてしまうというものです。
民法218条においては、敷地内の工作物からの排水を隣家に流すことは禁止されています。
つまり、所有地内での排水は、所有地内で処理を行うのが原則となります。
万が一、水抜き穴からの排水が隣家に流れていることがあれば、妨害予防請求権によって隣家から改善を求められる場合があり、擁壁所有者はそれに従わなければなりません。
隣家への排水流出は、排水溝などの排水設備を設けることで改善することができます。
擁壁のある住宅の購入を検討している方は、水抜き穴の排水に対する排水設備の有無についても気にかけてみると良いでしょう。
擁壁の入念なチェックを
購入を検討している住宅に擁壁がある場合、水抜き穴の有無はもちろん、土砂が流出していないかなどのチェックは非常に重要です。
また、擁壁自体のコンディションについても、あらかじめ入念な調査をすることが望まれます。
現地確認で不安なことがあれば、専門家に相談してみるのも良いでしょう。