アパートのオーナーをしていると、さまざまな理由から、入居者に立ち退きをしてもらうことがあると思います。
どんな場合でも、お互い気持ちよく、スムーズに立ち退きを行いたいものですよね。
今回は、立ち退いてもらう場合の手順や注意すべきこと、通知の仕方など、書面の書き方を中心に詳しくご紹介していきます。
立ち退きで悩んでいるオーナーさん必見です。
アパート立ち退き通知は必ず「書面」で行うこと
アパートの立ち退きをしてもらうための大まかな流れを見ていきましょう。
①立ち退きをしてもらいたい入居者に、書面で理由を通知する
電話や口頭などで理由を説明した場合、「言った、言わない」「言った、聞いていない」などの行き違いが起こる可能性が大いにありますし、お互い感情的になってしまうことも考えられます。
そこで、立ち退きの通知をする場合は、必ず書面にしましょう。
この場合、「内容証明」を利用することをおすすめします。
内容証明とは、「誰が、いつ、誰に、どんな内容の書面を出したのか」ということを、公的に郵便局が証明してくれる、というものです。
また、相手が受け取ったことを証明する「配達証明」も同時に利用しましょう。
なお、立ち退き交渉は、少なくとも契約満了の半年~1年前に通知する必要があります。
②口頭で立ち退きの説明を行う
立ち退きの書面を出したあと、できれば顔を合わせて細かい説明をしましょう。
書面だけだと伝えきれないことや、入居者側の意見も聞くことができます。
③立ち退き料を交渉する
オーナー側の事情により、立ち退きをお願いするときは、必ず払わなければならないということではありませんが、立ち退き料を支払う場合があります。
家賃滞納など、入居者側に問題がある場合は、この限りではありません。
このような流れを経て、退去のための手続きとなります。
アパートの立ち退きには「正当事由」が必要
アパートの立ち退きをお願いする場合には、賃貸借契約を終了させるための「正当事由」がなければ成り立ちません。
例を挙げてみましょう。
①【アパートの老朽化】
建物が古くなり老朽化が激しく、建物を壊す、新たなものに建て替えるなど、やむを得ない場合。
②【立ち退き料の補完】
オーナー側の事情で立ち退きをお願いするときに、立ち退くための費用をすべて負担できる場合。
③【入居者側の契約違反】
入居者が家賃滞納など契約違反をし、たびたび勧告しても改まらなかった場合。
以上のような場合が、正当事由です。
このような内容を書面にして、入居者に通知することになります。
しかし、③のように入居者による家賃滞納などの契約不履行がないときは、原則としてオーナーと入居者のお互いの合意がなければ賃貸契約を解除できないため、立ち退きを強制することはできません。
これは、借地借家法によって、入居者の権利が強く守られているからです。
アパートの立ち退き「正当事由」と「立ち退き料」
オーナー側の事情でアパートの立ち退きをお願いする場合、「正当事由」の他に「立ち退き料」が必要になってきます。
例えば、老朽化で立ち退きをお願いする場合の正当事由は、「耐用年数を過ぎた建物で、腐朽、破損が激しく、近く朽廃する恐れがある場合に限られる」としています。
しかし、そのような状況で人が住んでいることは、なかなか考えにくいことです。
仮にそのような物件であれば、新しい入居者は来ないでしょうし、賃貸物件として成り立たなくなってしまいます。
アパートのオーナーとしては、そうなる前に大規模修繕をして、アパートの価値を維持することに努めようとするでしょう。
そのため、実際に立ち退きを求めるときは、まだそこまで切羽詰った状況ではありません。
そうなると立ち退きの正当事由としては強いものではなくなるので「立ち退き料を払って正当事由を補う」ことが必要になるのです。
このように、老朽化の場合でも強い正当事由とはならないので、「高齢でアパート経営が難しい」「土地を他のことに使いたい」など、オーナー側の事情で立ち退きをお願いするには、立ち退き料が発生することを頭に入れておいてください。
それでは、次は立ち退きに関する書面について見ていきましょう。
アパートの「立ち退き通知書」の書面について
アパートの立ち退きをお願いする書面を書くときのポイントをご紹介します。
文書作成にあたっては、まず次のことを明確にしておきましょう。
・書面を作成した日付
・誰に宛てたものか
・差出人は誰か(ここにオーナーの住所と名前を入れ、捺印します)
・建物についての情報(立ち退きをお願いするアパートの住所、部屋番号などを明記します)
次に、「立ち退き通知書」の文章についてですが、次のことがポイントとなります。
・正当事由が明確に書かれているか
・立ち退きの期限について、少なくとも半年以上の猶予があるか
・立ち退き料についてはっきり書かれているか
書式は特に決まったものがあるわけではありませんが、お金に関することは曖昧にせず、しっかり明記しておきましょう。
正当事由については、どこまで詳しく書くのかはオーナー次第ですが、「お住まい頂いているアパートは、築○○年を経過し、経年劣化が激しいので建て直さなくてはならない状況です」など、簡潔に書くと伝わりやすくなります。
アパートの立ち退き料は書面で明確にしておく
次に立ち退き料についてですが、書面ではっきり提示しておくと入居者にも伝わりやすく、あとあと物事がスムーズに運びます。
立ち退き料の目安は次の通りです。
・実際に掛かった引っ越し費用
・次のアパートを借りるための不動産仲介料などの費用
一般的な目安としては、立ち退きをするアパートの家賃6~10か月と言われていますが、明確なものはありません。
オーナーと入居者が納得する金額が立ち退き料と考えてください。
書面には、「転居先への引っ越し費用を負担させていただきます」「家賃〇か月分を立ち退き料として負担させていただきます」などと書くことが多いようです。
ただし、更新のない「定期借家契約」の場合は、賃貸期間が終了したら借家契約も終了するので、それに合わせることで、特に立ち退きについて問題は起こりませんし、立ち退き料も発生しません。
通常の賃貸契約で更新のある「普通借家契約」の場合は、オーナーが更新を拒否したいときには、立ち退きをお願いすることになります。
アパートの立ち退きはオーナー自ら行うこと
アパートの立ち退きは、原則としてオーナー自らが行うことになります。
オーナー以外で立ち退きを行えるのは、弁護士だけです。
それは、弁護士法第72条で「弁護士以外が法律事件に関して、法律事務の取り扱い、又は周旋をすることはできない」と定められているからです。
したがって、管理会社に立ち退きを依頼すると、弁護士ではないため違法になります。
もし、依頼を管理会社が受けた場合は、オーナーも管理会社も法律を犯したことになるので注意してください。
また、入居者との交渉において、裁判に発展させることは避けましょう。
先程もお話ししたように、入居者の権利は借地借家法によって強く守られています。
裁判になって、お金と時間を掛けても、オーナー側が得をすることはほとんどありません。
このことからも、立ち退きをお願いする場合は、オーナー自らが書面で通知し、交渉しましょう。
自分だけで交渉するのが不安な場合は、弁護士に相談すればアドバイスをしてもらえます。
立ち退きをお願いするのは大変なことです。
だからこそ、入居者の心情を汲み、払うべきものは払い、誠意をもって交渉することで、スムーズな立ち退きを成立させましょう。
アパートの立ち退きをお願いするには「書面」が基本
アパートに入居している方々に立ち退きをお願いするのは、心情的には辛いことですし、業務的には大変なことです。
だからこそ、早めに計画を立て入居者に通知する必要があります。
通知を出す時は、すれ違いを生まないためにも書面で記録を残すようにしておきましょう。